サイエンスアゴラ2021 Q & A

Q&A

講演中に皆さまからいただいたご質問に,以下のとおり回答いたします.回答の最後に記した(○○)は,その質問に回答した講演者の氏名です.なお(支部会)と記載したものは,当支部会の方で回答を用意したものです.

Q:カミソリじゃダメな理由があるのでしょうか?

A:金属は熱伝導率が高いため,手の熱が雪結晶に伝わって溶かしてしまう恐れがあります.先端が尖った棒状の物の方が操作性の点で優れています.(橋本)

Q:積雪時の地上気温の最高記録は何度でしょうか?

A:降雪時の最高気温の記録は特に統計値として集計されていませんが,一般に,相対湿度や雪粒の大きさに依存して地上気温0℃〜6℃が降雪と降雨の境目になることが知られています.(支部会)

Q:竹くしはどのように雪の研究に使うのですか?

A:わた雪をほぐして,その中に含まれる雪結晶を取り出すために使われていました.(橋本)

Q:降雪粒子は低気圧の前面と後面でどのような違いがあるのでしょうか?

A:低気圧の前面では雲粒が付いていない雪結晶,後面では雲粒付き雪結晶が多くなるという違いがあります.(橋本)

Q:グリーンランド氷床から復元された気温復元の結果は,IPCCの昔の報告書のアイスホッケースティック曲線と大きく違いませんか?

A:今回示した結果は,グリーンランド氷床上における気温変化です.全球の結果ではありません.ホッケースティック曲線は,それら世界各地で推定された過去気温変化を統計的に総合して得られた地球規模での推定結果です.なので,違いがあるのは当然と言えます.(庭野)

Q:グリーンランドの降雨量が増えていると言うことですが,降雪量はどうなっているのですか?降雪量が増えれば少しぐらい溶けても氷床は無くならないと思いますが.

A:降雪量の増加よりも降雨量の増加の方が急速に進んでいます.なお,雨は,氷河のクレバスを伝って氷河底面に到達し,斜面に沿った氷河の流動を加速させる,つまり,氷体として海に出ていく量を増やすことが危惧されています.(庭野)

Q:AR4までは気温は大気中のCO2濃度に比例する(比例定数が気候感度)という真鍋理論に従って予想してカーボンバジェットを算出していたと思うのですが,AR5で気候感度がハイエイタス(気温停滞)によって最尤値が決まらなくなると,IPCCは突然,産業革命以降人為起源排出CO2の累積値に比例するという異なる理論を主張しており,整合性が無いと思うのですが?

A:サイエンスアゴラ2021での本企画では,気候変動による環境変化をうけて,これからの雪と共生する暮らしを考えることをねらいとしており,ご質問の点について十分な回答にはならないと思いますが,参考情報をお知らせします.

気温上昇の最尤値については,次の資料に関係することがらが解説されています.

・気候変動リスク情報創生プログラム公開シンポジウム平成27年度公開シンポジウム講演資料
「このままだと全世界平均気温は何度上がるのか?:気候感度の話」塩竈秀夫

CO2の累積排出量と気温上昇の大きさの関係について,IPCC WG1の最新の報告書AR6の結果の簡潔な解説がこちらからご覧いただけます.

なお,ハイエイタスは熱帯の大気-海洋相互作用がによる自然変動が大きく寄与していたことがわかっています.

  • 東京大学 大気海洋研究所 プレスリリース(2014年9月1日)

「地球温暖化の停滞現象(ハイエイタス)の要因究明 ~2000年代の気温変化の3割は自然の変動~」渡部雅浩ほか

ご参考になれば幸いです.(支部会)

Q:平将門の時代も極端な現象が多かったのでしょうか?

A:今日的な定義で言うところの極端現象が平将門の時代にも起きていたのかどうか,は,極端現象が起きていたかどうかを判断するために必要な観測記録がないため分からない,と言わざるを得ません.しかし,例えばこちらの本などを読むとわかるように,極端現象の帰結として起こり得る飢饉は定期的に起きていたことから,極端現象が起きていた可能性は十分あると言えるのではないか,と思います.(庭野)

Q:積雪量やドカ雪の頻度は森林保全や林業にも影響があると思いますが,山林内の積雪分布を知る技術研究は進んでいるのでしょうか?

A:今回ご紹介した合成開口レーダーを用いた方法やレーザー高度計を用いた方法が考えられますが,どちらも平地の積雪量より難易度は高く,一般的な技術として確立されてはいません.まず樹冠に積もった雪に電磁波は当たりますが,正確にはこれは地面の積雪深と一致はしないので,周辺の平地での精度の高い方法と結果を比べて,経験則から徐々に精度を高めていく方法が考えられます.ご指摘の通り,将来の水資源管理や農林水産業の持続可能性を考えるうえで重要なテーマです.(永井)

Q:地球観測衛星で雪の深さまでわかるのですか?

A:その通りです.今回ご紹介した合成開口レーダーを用いた方法やレーザー高度計を用いた方法,さらにはマイクロ波放射計を用いた方法など,複数の手法が存在します.(永井)

Q:衛星での積雪状況は,衛星が観測してから解析画像データなどに変換されるまで,および我々一般に公開されるまでどれくらいの時間がかかると見積もられていますか?

A:現在の衛星の運用方法や地上設備では観測から公開まで,約3-6時間程度が最短ではないかと想像します.極軌道衛星の場合,1つの衛星が同じ軌道上から同じ場所を観測できる頻度は12-16日に1日程度です.今後,衛星の基数が増え,ユーザーが増えて事業収益が見込まれれば,静止気象衛星「ひまわり」のように高頻度かつリアルタイムに近い情報提供システムが検討されるかもしれません.(永井)

Q:温暖化により北海道の一部や中部山岳では積雪量が増えるとのお話がありましたが,雪の性質の変化としては,重い雪(密度が高い雪)が増えるのでしょうか?

A:温暖化が進むと,気温が上昇し,雪の上に降る雨の量が確実に増えるので,所謂パウダースノーと呼ばれるような非常に軽い雪はほぼ確実に減る,つまり重い雪ばかりになる,と思って頂いて良いと思います.そこから更に温暖化が進むと,そもそも雪がない,という状況になってしまいます.(庭野)

Q:シミュレーションによる予測をどこまで信じてAIの判断にどこまで依存して良いのですか?

A:一般的にシミュレーション(数値計算)には既知の物理法則が入っていて,自然界のふるまいを元に計算結果を返します.一方,AIではこれまでの学習データに基づいて高確率と考えられる結果を返してくるものであり,これも地球科学の分野でも導入研究が進められています.曖昧なものを認識・区別することが得意ですね.特にAIの一つである「機械学習」は10年以上前から衛星画像解析の分野でも当たり前に使われてきました.しかしAIは「なぜそうなるのか?」を分かっていなくても結果が出てくるので,全ての学術的な問いに答えてくれるわけではないと個人的には考えています.一方,災害対応や資源探査など実利用面では,完璧な精度や理論が保証されていなくても,とりあえずの”あたり”が付けられればそれでよい,などの用途にAIが有用と考えられます.(永井)

Q:アイスコアからの気温復元がありましたが,他に植物など別の要素からの気温復元はあるのでしょうか?また,他のがあれば,アイスコアとの予想の幅はどのくらいあるのでしょうか?

A:例えば,木の年輪の状況から過去の気候変動を復元する研究は盛んに行われています.しかし,アイスコアや木の年輪から得られる過去の情報は,その場所周辺の情報しか保持していません.つまり,地球全体の気温変化をそれらの地点データから俯瞰することは出来ません.一般に,アイスコアが取れる場所(超低温)では,豊富な年輪を記す太い幹を持つ木は成長出来ません.よって,それらの予想結果の違いを比較して議論することは,残念ながら原理的に成立しません.(庭野)

Q:温暖化によって除雪作業が減り暖房用灯油代が少なくて済むというメリットもあるのでは?

A:雪が減少し,除雪費は減る可能性はありますが,大雪の可能性は残るので,マネージメントが難しくなってくると思います.1度~2度程度の気温上昇では暖房を付けなくても良いほど暖かくなるわけではないので,メリットは限定的かと思われます.しかし,この灯油代の問題は,雪が無くなることによって引き起こされる様々な変化の1つにしか過ぎません.雪が無くなることによって生じる(人間にとって)プラスの変化とマイナスの変化は非常に多岐に渡りますし,また,それぞれが互いに影響を及ぼすため,現在の科学的理解度ではまだ気づくことが出来ていないこともあると思います.更に,地球上には,人間以外にも多くの動物が暮らしています.それらの人間以外の動物,更には植物などにとってどのような影響が出るのか,について正しく評価することも必要不可欠です.このため個々の問題を特別に取り上げて考えることも必要ですが,人々の暮らしに関わりのある動植物を含め総合的に評価することが肝要であると思います.(支部会)

Q:雪として降るおかげで,山に水が蓄えられて,水資源として利用できる,と聞いたことがあります.温暖化したときに雪が減ったせいで,水資源が減ることになるのでしょうか?(★)

A:年間トータルで利用可能な水資源量が変化するかどうか,は分からないと思います.恐らく,地域によって状況は大きく異なるものと思われます.それよりも,一番の問題は,その水資源を利用出来るタイミングが大きく変わることだと思います.例えば,冬の降水は,これまでは積雪という天然のダムに蓄えられていたわけですが,温暖化が進行すると,問答無用にほぼ即自的に陸から流出していきます.結果として,春先の農業で使える水資源は大きく減少することになります.(庭野)

Q:温暖化に伴って雪に関する研究に注目が高まり,研究者の方が労力を費やすと聞いた科研費などをはじめとした研究費の申請が通りやすくなるということはあるのでしょうか?

A:一般論としては,研究費の申請書は中身が重要なので,無条件でそのような状況が生じることはないでしょう.一方で,降雪・積雪の変動は社会の様々な部分に影響を与える可能性があります.一般の方々からも注目されることにより,学術研究が目的の科研費のみならず,民間出資の研究助成や委託研究などの機会が増える可能性はありそうです.(永井,庭野)

Q:田植えの時期もシフトすれば,うまくいく?

A:適応策として,そのような取り組みは既にはじまっているようです(シフトする時期の推定にAIを用いる研究など)(支部会)

Q:スキー場への影響が心配です.2シーズン前の暖冬もひどかったです.

A:スキー場が温暖化による影響を直接的に受けることは間違いないでしょう.今後さらに温暖化が進む場合,人工雪を用いてゲレンデを維持することが不可欠になると考えられます.その際,気象予報結果や集客予想結果と照らし合わせて,人工雪作成の最適なタイミングを把握することが求められるなど,これまでにない対応が多数必要となってくると思います.(庭野)

Q:人工雪もすぐに溶けてしまうような気温になってしまったら困りそう... グラススキーが主流になるかも?

A:人工雪による活用も氷点下になるタイミングがまだあるから出来ることで,そもそも氷点下になることが無くなってしまうと,ご指摘のように人工雪を使う意味すら無くなってしまいます.そうなると,本当にグラススキーしか出来なくなってしまうと思います.(庭野)

Q:コロナ禍以前は,日本の雪を求めて(主に北海道に)海外のスキーヤーが押し寄せていたと聞いています.私はスキーヤーなので日本の雪の事情は解っている(粉雪や湿雪の分布等)つもりですが,温暖化によって日本の雪も湿雪が増える懸念があるとのことで心配です.ところで,わざわざ粉雪を求めて日本に来るほど世界の雪事情はそんなに悪いのでしょうか? スキーの視点から見た世界の雪事情の現状を教えて下さい.

A:温暖化によって,低い標高にあるスキー場では,スキーシーズンが短くなりつつあるのは世界的な傾向のようです.また,氷河帯にスキーコースが開かれているヨーロッパのスキー場では,氷河融解の影響も受けています.ただし,海外からの滑走者が増えていることと温暖化の影響は直接的にはあまり関係ないかもしれません.訪日者データをみますと,最も多いのがオーストラリアです.オーストラリアは降雪量が少ないため,ゲレンデが硬いのです.このため,降雪サイクルが短く,新雪を楽しめる機会が多い日本を目指すということです.また,山スキーのメッカである白馬での訪日者データをみても,ヨーロッパの実数はまだとても少なく,その訪日時期がヨーロッパでも雪のコンディションが良くなる1月中旬~2月であることからも,雪事情が悪いために日本を目指す,というわけでもなさそうです.(支部会)

Q:今以上に,温暖化やSDGsに対する意識向上や啓発の道具として活用されると思います.

A:そう言って頂けると嬉しい限りです.今後は,雪が無くなると地球上の(人間のみに限定されない)全ての生き物の生活がどのように変わる可能性があるのか,についての描像をより具体的に示していく必要がある,と皆さんとのやり取りを通じて強く感じました.(庭野)

Q:広島のスキー場も半数が昨年閉業しましたが人工雪の装置を導入したところだけが生き残っていますね

A:上記★印の質問で回答しようように,当面は人工雪作成で対応出来るかもしれないですが,もしかしたら,それすら使う意味の無いような超温暖な状況になってしまうことは否定出来ません.スキー愛好家にとっては,毎年スキーを楽しめるかどうかの瀬戸際の状況になりつつある,と言えると思います.(庭野)


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