登壇者の川瀬さん、出川さんがみなさまからのご質問にお答えします!
サイエンスアゴラ2020で皆様からお寄せ頂いた質問・コメントについて、登壇者の川瀬宏明さん、出川あずささんがお答えします。
川瀬宏明さんの講演へのご質問
質問:温暖化すると日本海からの水蒸気量が増えると思うのですが、雪が減るということは、全体の降雨量は増えて、冬でも豪雨の危険性が高まるのでしょうか?
答え:場所によって変わります。
質問:今回説明頂いた内容はモデリングを使った予測と思いますが、過去のデータ(0.74度上昇)を纏めるとどのような結果になっているでしょうか?モデリングの結果と合っているでしょうか?
答え:こちらの検証には、長期間の平野と山岳域のデータが必要になり、まだ明確な答えは得られておりません。ただ、東日本に比べて北日本の日本海側の積雪深は近年の減少傾向が小さいこと、標高2450 mの立山室堂平で観測された積雪と平野部で観測された積雪の年々変動が異なっていたことなどは、モデルで見られる結果と整合しています。
質問:現在、大雪山系では乾雪が降ります。4度上昇した場合、降雪が増えるということなのですが、雪の質は湿雪に変わりますか?
答え:北海道大雪山系では、標高にも寄りますが、厳冬期は4度上昇したとしても、まだかなり気温が低く、乾雪が降ると見られます。ただ、晩秋や初春は、0度に近づいてくるため、多量の湿雪が降る可能性があります。
出川あずささんの講演へのご質問
質問:雪崩が発生する面が弱層となっていますが、弱層はどうしてできるのですか?
答え:弱層の形成は2種類あります。一つは降雪現象に起因するもの。もう一つは、雪が積もった後に雪粒子が変化して弱層となる場合です。前者には、降雪強度の変化で低密度の強度の弱い層が生じる場合、あるいは低気圧の通過などに伴い、粒径の大きな雪が降り、弱層となる場合など、いくつかのパターンがあります。後者については、積雪内にある温度差によって水蒸気が移動し、雪粒子に霜が付き、雪粒子同士の結合力が低下することで弱層となる場合などがあります。雪の変化(変態と呼びます)は、とても興味深い現象ですので、入門書などで勉強してみてください。
質問:登山者の他にスキーヤーも意外に多いなぁと思いましたが、山岳会のスキーのような場合はどちらにカウントされているでしょうか?
答え:死者は、事故が発生した時点での活動で区分しています。山岳会に所属されていても、スキーをされていれば、スキーヤーの死者としてカウントしています。登山は、滑走用具を用いない、歩きでの活動としています。こうした死者の傾向は国で違いがあり、北米ではスノーモービルの死者が最多を占め、ヨーロッパでは滑走の死者がほとんどとなります。登山の死者が多いのは、日本の特徴です。そして、過去30年間の全体死者数は、登山が約半数を占めていますが、最近は滑走の死者割合が増える傾向にあります。
質問:「弱層」破壊が雪崩の誘発に大事そうですが、簡単に見つける方法はあるのでしょうか?しっかり深い穴を掘らないと見つからないでしょうか?
答え:積雪は、その強度や構造に場所によるバラツキがあり、これを積雪の空間的多様性と呼びます。たとえば、ある場所で穴を掘っても、そこから5 m離れただけで異なっていることもあります。よって、穴を掘ることよりも、「適切な場所を選ぶ」ことが、何よりも重要です。この場所選びは、フィールド経験が必要な領域です。よって、地形を使って安全マージンを取りつつ、行動し、フィールド経験に書籍などの勉強を組み合わせ、ゆっくりと学んでいってください。
質問:直接証拠のワッフ音てどんな音ですか?気になります。
答え:ワッフ音とは、歩いている際に積雪内から聞こえてくる音のことです。積雪表層に、人の刺激が届く(つまり浅い位置)に弱層が存在しており、それが人の刺激で破壊され、ある範囲まで破壊が広がっている時に生じます。このような時、積雪の不安定性は臨界に達していますので、「急な斜面に入らないように!」と、自然が音で教えてくれているのです。硬い雪面を割るような音とは異なり、英語の擬音 “Whumph” から来ています。比較的大きなワッフ音が生じた場合、初めてでもわかります。聞き逃さないようにしてください。
質問:雪崩情報に使われるデータはどなたが集めているのですか?
答え:JAN会員で資格を所持した山岳ガイドからフィールドでの観察情報、近隣スキー場のスキーパトロールからの雪崩管理に関わる情報、気象測器のデータ、また一般山岳利用者から寄せられる雪崩発生などの情報など、多様な関連情報を集約しています。
質問:雪崩地形に入る人数と時間を減らすことが大事なんですね。
答え:大きな事故を起こさないために、雪崩地形内に入る人数と時間をコントロールすることが極めて大切です。これは昔から言われている「安全な場所で止まる」とか「一人ずつ滑りましょう」と同じ話です。流される人数を最小化させることは、仲間による捜索救助よる被害者の生存救出率を高めますので、この面でも重要です。
質問:温暖化した時に雪崩は起きやすくなるのでしょうか?
答え:温暖化による極端降雪が生じた場合、自然の摂理として、その降雪のタイミングにおいては、雪崩は発生しやすいだろう、ということは言えます。ただし、すごい勢いで雪が降っているということは認識しやすいわけですから、その危険認知はできると思います。それ以外の異なった種類の雪崩に関しては、現時点ではなんとも言えません。
質問:スキー場以外でスキーを滑ることは危険ではないのですか?そもそもスキー場以外で滑ることはいけないことではないのですか?
答え:夏山にしろ、冬山にしろ、山には、いつも危険な面があります。それは登山であれ、スキーであれ、まったく同じです。スキー場の外は、多くの場合、国立公園等であり、すべての国民に開かれた場所になっており、スキーのみ取り上げての禁止措置はありません。また、もともとスキーは「雪山を滑る」ものとして誕生しており、昔はスキー場のことを「練習場」とも呼んでいました。「スキーの日」の由来となっているレルヒ少佐は、1911年、来日すると、すぐに富士山で山スキーをされています。その後、広まりをみせたスキーは、湯治場となっている温泉地の裏山を切り開き、足で新雪を踏んでスキー場としていました。そして、そこにリフトが架かったのは戦後です。現在のようにコースが積極的に圧雪されるようになったのは80年代に入ってからとなります。最近、報道等で目にする「バックカントリースキー」という言葉は、100年以上前から多くの人が楽しまれている「山スキー」と同じであるとお考えください。