関東・中部・西日本支部表彰制度

趣旨

日本雪氷学会関東・中部・西日本支部は、若手研究者の活発な研究発表と学会参加を促し、さらに雪氷研究の教育・普及活動を奨励することで、支部の活性化と社会貢献を目的に、2016 年度に「関東・中部・西日本支部賞」を設立しました。

2023年度日本雪氷学会関東・中部・西日本支部賞候補者の推薦

1.推薦を依頼する支部賞

(A)論文賞

雪氷学における研究ならびに技術開発に寄与し,今後さらなる発展が見込める論文の主著者を顕彰する.2022年度および2023年度の「雪氷」,「Bulletin of Glaciological Research」,またはそれに準じる国際学術誌に論文を発表した,2024年3月31日時点で35才以下の者に対してこの賞を贈る.

(B)活動賞

雪氷及び寒冷に関する教育・普及に顕著な貢献をした者に対してこの賞を贈る.

2.候補者を推薦する支部会員は、下記の項目を記載した書類をメールあるいは郵送のいずれかの方法で委員会幹事へ提出する.なお推薦は自薦・他薦は問わないとする.

  1. 論文賞,活動賞の区別.
  2. 推薦者の氏名,所属,職名.
  3. 受賞候補者の氏名(または団体名),所属,職名,学位.
  4. 推薦理由書(○○○に関する研究,○○○の功績,などの標題を掲げ,500字ほどに纏めたもの).
  5. 論文賞の候補者の推薦にあたっては,該当する論文,著書,またはその写しを添付する.
  6. 活動賞の候補者の推薦にあたっては,著書,新聞記事の写しなど,その賞に値するもの,あるいは客観的評価を得たことを明白に示した文書等があればそれを添付する.

3.提出先

〒113-0033 東京都文京区本郷1-30-17  MRビル6F
株式会社 工学気象研究所 第二技術部 森 淳子 気付
日本雪氷学会関東・中部・西日本支部表彰選考委員会幹事
E-mail:mori_jn(at)nifty.com
※(at)は@に置き換えてください。

4.締め切り

2024年2月28日(火)(必着)

 

過去の支部賞受賞者

年度 支部賞 受賞者

受賞件名・論文題目

2022年度 論文賞

佐藤洋太
海洋研究開発機構)

Ice Cliff Dynamics of Debris-Covered Trakarding Glacier in the Rolwaling Region, Nepal Himalaya.
  活動賞

納口恭明・罇優子
(防災科学技術研究所)

Dr.ナダレンジャー・助手ナダレンコの雪崩防災教育への功績
2021年度 論文賞 小長谷 貴志 氏
(東京大学大気海洋研究所)
Abrupt climate changes in the last two deglaciations simulated with different Northern ice sheet discharge and insolation
2020年度 論文賞 大沼 友貴彦 氏
(東京大学生産技術研究所)
北極圏の氷河および氷床の融解を加速させるバイオアルベド効果とそのモデル化研究
  論文賞 長田 友里恵 氏
(ケミカルグラウト株式会社)
帯鋼補強土壁の交換への地盤凍結工法の適用
  活動賞 上野 健一 氏
(筑波大学)
15年間にわたる菅平高原での冬季実習を通じた雪氷フィールド教育と普及活動への功績
  活動賞

斉藤 和之 氏
(海洋研究開発機構)

および日本国内地温・凍結深データベース作成委員会

日本国内の地温・凍結深観測値のデータレスキューによる雪氷研究推進と教育・普及に対する貢献
2019年度 論文賞

大藪 幾美 氏
(国立極地研究所)

Compositions of dust and sea salts in the Dome C and Dome Fuji ice cores from Last Glacial Maximum to early Holocene based on ice‐sublimation and single‐particle measurements
  論文賞 繁山 航 氏
(総合研究大学院大学)
Microstructural analysis of Greenland ice using a cryogenic scanning electron microscope equipped with an electron backscatter diffraction detector
  活動賞 川瀬 宏明 氏
(気象庁気象研究所)
川瀬宏明著「地球温暖化で雪は減るのか増えるのか問題」とその教育・普及活動に対する貢献
2018年度 活動賞 武田 一夫 氏
(元帯広畜産大学)
植物「シモバシラ」のもつ雪氷現象の美しさや魅力の紹介
2017年度 論文賞 荒木 健太郎 氏
(気象庁気象研究所)
低気圧に伴う那須大雪時の表層雪崩発生に関わる降雪特性
  活動賞 杉村 剛 氏
(国立極地研究所)
寒冷圏監視衛星データ利用の推進
2016年度 論文賞 島田 利元 氏
(宇宙航空研究開発機構)
Inter-Annual and Geographical Variations in the Extent of Bare Ice and Dark Ice on the Greenland Ice Sheet Derived from MODIS Satellite Images
  論文賞 ヌアスムグリ アリマス 氏
(ゼノクロス航空宇宙システム)
Winter-spring transition of ground conditions over Alaska derived by airborne 6 GHz microwave and infrared observations
  活動賞 荒木 健太郎 氏
(気象庁気象研究所) 
市民科学による雪結晶観測を通した雪氷知識普及の功績

 

2022年度受賞者

論文賞

受賞者名:佐藤 洋太 氏(海洋研究開発機構)
論  文  名:Ice Cliff Dynamics of Debris-Covered Trakarding Glacier in the Rolwaling Region, Nepal Himalaya
選定理由:

 デブリ域が広いヒマラヤ地域の氷河にとって、そこに発生する複雑地形、特に氷壁の存在とその役割の理解は、融解量を含む氷河の挙動研究にとって重要なポイントである。氷壁とは岩屑被覆氷河(デブリ氷河)の表面に形成される特徴的な氷の微地形であり、近年、デブリ氷河における表面融解の多くが、この氷壁にて生じている可能性が示唆されてきた。本論文は、ドローンとヘリコプターを用いた航空写真測量により高解像度の地形データを作成することで氷壁の空間分布特性、形態的特徴、氷壁の形成・存続・消失等の過程に関する定量的実態把握を行った。氷河におけるデブリ域の実態と役割についての解明は、この研究を含めることでより発展すると考えられる。また、候補者は国際的共同研究を積極的に実施・継続しかつ国際誌での論文発表も続いており、今後のさらなる発展を見込むことができる。
 以上の理由により、佐藤洋太氏を、論文賞の受賞候補者に選定した。

活動賞

受賞者名:納口恭明・罇優子(防災科学技術研究所)
件  名:Dr.ナダレンジャー・助手ナダレンコとしての雪崩防災教育の功績」
選定理由:

 近年、雪崩による遭難や死者が続いているが、一般市民の方が雪崩に触れることや関心を持ってもらう機会は少ない。納口恭明氏(Dr.ナダレンジャー)は、2013年の定年退職後に罇優子氏(助手ナダレンコ)とタッグを組み、子供を含む一般市民に向けた防災科学教室を二千回以上開催してきた。さらにその経験や知識をもとに4冊の一般啓蒙書を上梓した。両名の活動は自然災害の発生メカニズムについてわかりやすい言葉や実験を用いながら、現象の本質的理解や関心の喚起につながることが特徴であり、雪崩等の普及・教育に大きく貢献し、社会的注目も集めている。

 以上の理由により、納口恭明・罇優子の両氏を、活動賞の受賞候補者に選定した

 

2021年度受賞者

論文賞

受賞者名:小長谷 貴志 氏(東京大学大気海洋研究所)
論  文  名:Abrupt climate changes in the last two deglaciations simulated with different Northern ice sheet discharge and insolation
選定理由:

 地球史における退氷期とは、寒冷な氷期から温暖な間氷期に移行する時期のことであるが、退氷期の途中に数十年程度で10度近い気温変化を伴う急激な気候変化が起こったことが知られている。退氷期は直近の氷期の終わりではおよそ2万年から1万年前ころ(19〜11千年。T1)に,その一つ前の氷期では14万年から13万年前ころ (138〜128千年。T2)に起きているが、その挙動には大きな違いがあることが知られている。前者T1ではBolling–Allerod 温暖化、Younger Dryas 寒冷期、そして完新世初期の温暖化と3つの変化があったが、後者T2では退氷期後期の温暖化一つのみであり、この差異の要因については明らかではなかった。本論文は、気候モデル・氷床モデルを組み合わせて、最近2退氷期における気候変動の差異の要因を、気候・氷床システムの挙動によって初めて評価したものである。
 小長谷貴志氏らは大気海洋結合モデルと氷床流動モデルをそれぞれ直近2回の退氷期に適用した数値実験を行い、その実験結果の詳細な解析から、日射の長期的な変動に北半球氷床が応答し、大西洋への淡水流出が変化し、それが大西洋海洋深層循環に作用することを通して、退氷期の気候変化の違いをもたらすことを明らかにした。特に,T2ではT1より日射変動の振幅が大きく、それに応じた氷床の縮小速度が速いために融解水量がT1より5割ほど大きかったという違いにより、T2では大西洋海洋深層循環の回復と温暖化が退氷期後期のみで起きるという挙動の差異を再現することに初めて成功した。
 本研究によって、過去の気候変動において日射、氷床と海洋循環の変動が重要な役割を果たしていることが明らかとなった。この知見は、現在や将来の気候・氷床変動の理解に大きく貢献するものであり、したがって、本論文は、雪氷・氷床が古気候を含む地球規模気候変動の評価に寄与することを示すものであり、今後さらなる発展が見込める論文であると認められる。

 

 

 

 

 

 

 

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2020年度受賞者

論文賞

受賞者名:大沼 友貴彦 氏(東京大学生産技術研究所)
論  文  名:北極圏の氷河および氷床の融解を加速させるバイオアルベド効果とそのモデル化研究
選定理由:

 本論文は、雪氷表面のアルベド低下に影響を及ぼすと考えられる雪氷微生物活動の影響、すなわちバイオアルベド効果に関して述べた総論であり、バイオアルベド効果の観測、バイオアルベド効果を引き起こす微生物、バイオアルベド効果の数値計算、国内外におけるこれらの研究の状況をレビューするとともに、バイオアルベド効果を定量的に評価するための今後の研究の展望について述べている。59編の学術論文が引用されており、バイオアルベド効果に関する現在の研究が網羅されているとともに、今後の研究の方向性について著者のオリジナルな考えが提示されている。
 地球上の雪氷の質量損失の要因の一つである雪氷表面のアルベド低下に対し、鉱物ダストや黒色炭素に並んで、微生物とその活動に由来する有機物の効果であるバイオアルベド効果の影響が注目されている。バイオアルベド効果の研究は、今後の雪氷学の重要な課題であり、本論文は関連分野の研究者へ有用な情報を提供している。したがって、本論文は雪氷学の研究に寄与し、今後さらなる発展が見込める論文であると認められる。
 また、これまでに著者らは関連する研究成果を2016年にBulletin of Glaciological Researchへ、2018年と2020年にはThe Cryoshereに発表しており、これらの現地観測とモデル化の研究業績からは、雪氷研究者としての著者の将来性が感じられる。
 以上の理由により、大沼友貴彦氏を、論文賞の受賞候補者に選定した。

 

 

受賞者名:長田 友里恵 氏(ケミカルグラウト株式会社)
論  文  名:帯鋼補強土壁の交換への地盤凍結工法の適用
選定理由:

 道路脇の擁壁に広く用いられている帯鋼補強土壁が老朽化した際にこれを交換するためには、背面の盛土を崩さないように土を固化する技術が必要である。本論文は、この技術に雪氷学分野で開発された地盤凍結工法を活用することを目指したものである。地盤凍結工法は、これまで地下水位以下でのトンネル掘削などに応用され、飽和土に対しての研究がなされて来たが、帯鋼補強土壁のような地表近くの不飽和土への活用事例は乏しく、水分飽和度の違いや土中水の流れによる地盤凍結状況への影響については不明な点が多い。本論文では、実寸での実験と室内模擬実験により、地盤凍結工法の活用によって壁面材交換が可能であることを実証するとともに、不飽和状態でも地盤凍結工法が適用できる体積含水率の限界を明らかにした。
 雪氷学での知見を実際の土木工事現場での技術として応用しようとする研究であり、実社会で役立つ雪氷学を具現化した貴重な研究成果である。したがって、本論文は、雪氷学における技術開発に寄与するものと認められる。
 また、著者の凍土関係でのこれまでの研究成果は土壌物理学会でも高く評価されており、今後は、雪氷学会誌「雪氷」ないしBulletin of Glaciological Research への積極的な投稿を行うことにより、雪氷学会へ益々貢献することが期待される。
 以上の理由により、長田友里恵氏を、論文賞の受賞候補者に選定した。

 

 

活動賞

受賞者名:上野 健一 氏(筑波大学)
件  名:15年間にわたる菅平高原での冬季実習を通じた雪氷フィールド教育と普及活動への功績
選定理由:

 関東地方では、学生数が極めて多いが、フィールドで雪氷に接する機会は少ない。雪氷分野の持続的な発展にとって、これらの学生に対する雪氷教育は大きな意義を有する。上野氏は、15年間という長期に亘り、長野県菅平高原で、筑波大学生を対象とした冬季の雪氷現象を題材としたフィールド教育に取り組んでいる。
 これまでに、いくつかの課題をパッケージにして選択実施できるようなテキストを作成し、主業績では、その中から、積雪断面観測による気象の復元、移動観測と微気象環境の評価、降雪粒子の観測、広域探査の4項目を取り上げて、高等教育での雪氷に関するフィールド教育の参考になるさまざまな工夫やノウハウを紹介した。これまでの卒業生は、大学院へ進学するのみならず、JAMSTECや気象研究所の研究員、気象庁をはじめとする公務員、日本気象協会や気象関係の民間企業の職員などとして活躍しており、雪氷気象分野と関連のある職場へ多数の卒業生を送り出している。
 また、主業績に加えて、上野氏は、市民向けのサイエンスカフェの開催や山岳の気象・気候についての解説など、雪氷及び寒冷に関する普及活動に積極的に取り組んでいる。したがって、上野氏は、雪氷及び寒冷に関する教育・普及に顕著な貢献をしたと認められる。以上の理由により、上野健一氏を、活動賞の受賞候補者に選定した。

 

 

受賞者名:斉藤 和之 氏(海洋研究開発機構)および日本国内地温・凍結深データベース作成委員会
件  名:日本国内の地温・凍結深観測値のデータレスキューによる雪氷研究推進と教育・普及に対する貢献
選定理由:

 本業績は、四散消滅の危機に有った過去の日本各地での地温と凍結深のデータを収集し、電子化とクオリティチェックを行った後にデータベースとして公開したものである。斉藤氏らは、データレスキューのため、気象庁(JMA)や北海道立総合研究機構農業研究本部(HRO)などで保存してあった紙媒体やマイクロフィルムのデータから、東北、北海道を中心としつつ関西、沖縄の観測点も含めた41地点を対象とし、古い地点では1800年代末からの時間単位のデータをデータベース化した。これは国内初の地温と凍結深の電子データベースである。
 この活動は、土壌の凍結融解や地温変化に関する国内各地の過去のデータの活用に道を開き、地球環境変動の研究に繋がる地温を活用した雪氷学の研究や教育・普及活動の推進に大いに貢献するものであると認められる。また国民の財産でもあるデータが四散消滅しないための手順や受け皿の実例を示したものであり、データレスキューを通じた雪氷学の研究や教育・普及の推進に大きく貢献するものであると認められる。
 したがって、斉藤氏らは、雪氷及び寒冷に関する教育・普及に顕著な貢献をしたと認められる。以上の理由により、斉藤和之氏および日本国内地温・凍結深データベース作成委員会を、活動賞の受賞候補者に選定した。

 

 

2019年度受賞者

論文賞

受賞者名:大藪 幾美 氏(国立極地研究所)
論  文  名:Oyabu, I., Iizuka, Y., Kawamura, K., Wolff, E., Severi, M., Ohgaito, R., Abe-Ouchi, A., Hansson, M. (2020): Compositions of dust and sea salts in the Dome C and Dome Fuji ice cores from Last Glacial Maximum to early Holocene based on ice‐sublimation and single‐particle measurements. Journal of Geophysical Research: Atmospheres, 125, e2019JD032208. https://doi.org/10.1029/2019JD032208
選定理由:
 本論文では、南極内陸のドームふじとドームCの2つの氷床コア中のダストと海塩粒子の化学組成および質量比が分析された。得られた分析結果と既発表のコア中のイオン濃度データとを合わせた解析により、最終氷期最寒期のドームふじへのダストフラックスはドームCへのそれよりも約3倍高かったことが明らかにされた。また、ドームCへ飛来したダストの方が小さく扁平で、遠方へ輸送されやすい性質であったことも示された。これらの結果は大気大循環モデルの結果と整合的であり、モデルの計算結果が定量的に検証されるとともに、氷期のダストの主な起源がパタゴニアであることが示された。さらに、約17,000年前以降に飛来したダストの輸送高度の検討から、間氷期にオーストラリアから輸送されるダストの割合がドームCで増えたという従来の研究結果が支持される一方で、ドームふじへは引き続きパタゴニアから多くのダストが飛来していたことが新たに示された。
 このように、本論文では緻密な分析と既往研究を踏まえた詳細な解析が行われているとともに、数値モデルの定量的検証にも貢献した。また、本論文は、複数のコアを用いた広域比較研究であること、さらには国際共同研究であることなど、優れた枠組みの中で実施された研究の成果であることも評価できる。したがって、本論文には、雪氷学上の貢献が認められるとともに、雪氷研究者としての著者の将来性が感じられる。また、今後さらなる発展が見込める研究内容を含む論文であると認められる。
 以上の理由により、大藪幾美氏を、論文賞の受賞候補者に選定した。

 

 

受賞者名:繁山 航 氏(総合研究大学院大学)
論  文  名:Shigeyama, W., Nagatsuka, N., Homma, T., Takata, M., Goto-Azuma, K., Weikusat, I., Drury, M. R., Kuiper, E.-J. N., Mateiu, R. V., Azuma, N., Dahl-Jensen, D., Kipfstuhl, S. (2019): Microstructural analysis of Greenland ice using a cryogenic scanning electron microscope equipped with an electron backscatter diffraction detector. Bulletin of Glaciological Research, 37, 31-45. https://doi.org/10.5331/bgr.19R01
選定理由:
 本論文では、氷床のダイナミクスを理解する上で重要な、氷床内部にある多結晶氷の変形メカニズムの理解を目的として、後方散乱電子解析分析装置(EBSD)を搭載したクライオ走査型電子顕微鏡(ESEM)システムが新たに構築された。この分析システムを用いて、多結晶氷の粒径および氷内の不純物濃度と氷の変形速度との関係に着目して検討が行われた。特に氷期に形成された氷に含まれる、結晶粒径が小さく不純物濃度の高い“cloudy band”の微細構造と変形履歴の分析が行われ、これと隣接する透明な層とが比較された。人工氷を使用した角度誤差評価、およびグリーンランド氷床コアを用いた解析の結果、亜結晶粒界の密度と方位傾斜角がcloudy bandで高く、氷の変形の一要因である転位がこの層で多いことが示され、氷床流動メカニズムの理解の深化に大きく貢献した。
 緻密な分析の結果を用いて氷床流動メカニズムについての解析が行われており、雪氷学上の貢献とともに、雪氷研究者としての著者の将来性が感じられる。新たに構築した分析システムは、氷物性や、氷河や氷床のダイナミックスの理解へ貢献するのみならず、地球温暖化による氷床応答や海面変動などの課題への貢献が期待でき、今後のさらなる発展が見込まれる。
 以上の理由により、繁山航氏を、論文賞の受賞候補者に選定した。

 

 

活動賞

受賞者名:川瀬 宏明 氏(気象庁気象研究所)
件  名:川瀬宏明著「地球温暖化で雪は減るのか増えるのか問題」とその教育・普及活動に対する貢献
選定理由:
 授賞の対象となる著作は、多くの一般市民や大学生・高校生への教育・普及を目的として出版された。本書の構成は、まず、降雪のメカニズム、豪雪・寡雪地域の分布といった、降雪、積雪、融雪に関する雪氷学の基本を説明した後、地球温暖化と雪氷との関係について詳述され、最新研究についても末尾で触れられている。一般の読者は読み進めるうちに雪氷防災の基礎から応用までを学べるという点ばかりでなく、専門外の研究者が興味深く読める点においても、本書は高く評価される。これまで雪氷防災の専門書は存在するものの平易な解説本は存在しなかったが、気象学、特に近年関心の高い気候学の立場から書かれた本書は若い感性にあふれており、多くの読者に受け入れられると思われる。さらに、本書には全国で活躍する気象キャスターによるコラムが集録されており、初学者が読みやすい工夫がされているとともに、気象予報士と協働して教育・普及活動を行ってきた著者のこれまでの実績が示されている。したがって、本書の出版は、雪氷研究の教育・普及へ顕著な貢献をしたものと認められる。
 以上の理由により、川瀬宏明氏を、活動賞の受賞候補者に選定した。

 

 

2018年度受賞者

活動賞

受賞者名:武田 一夫 氏(元帯広畜産大学)
件  名:植物「シモバシラ」のもつ雪氷現象の美しさや魅力の紹介
選定理由:
 本会員は、茎から氷の結晶を析出することが知られているシソ科の多年草である植物「シモバシラ」について、その氷晶析出機構に関する研究を進めるとともに、氷晶を析出するシモバシラの美しさや魅力を、雪氷学会員のみならず一般市民に紹介する活動を長年続けている。
 研究面においては、シモバシラによる氷晶析出を、野外観察や室内実験によって、物理現象として説明した(武田, 2013)。また、国際シンポジウムであるISCB2018(International Symposium on Cryosphere and Biosphere)において、シモバシラの氷晶析出機構に関する研究成果の発表を行った(Takeda, 2018)。
 近年には、自ら撮影したシモバシラの様々な写真や、シモバシラより析出する氷の動画を用いて、写真展、サイエンスカフェ、講演会を行い、シモバシラの美しさやその魅力を広く一般市民に伝えている。また、昨年度と今年度には、兵庫県立人と自然の博物館と共同で、自ら栽培したシモバシラを用いて、山歩きすることなくシモバシラの魅力を一般市民に伝えようと、観察会を積極的に行った。
 これまでシモバシラといえば、冬の寒い朝、地表の水分が凍って細かい柱状になった”霜柱”だけを想像する一般市民が多かった。これまであまり広く知られてこなかった植物のシモバシラが生み出す雪氷現象の美しさやその魅力を一般市民へ伝える活動は、雪氷教育の教育・普及に顕著な貢献をしたものとみなされる。
 以上の理由により、武田一夫氏を、活動賞の受賞候補者に選定した。

2017年度受賞者

論文賞

受賞者名:荒木 健太郎 氏(気象庁気象研究所)
論  文  名:荒木健太郎 (2018): 低気圧に伴う那須大雪時の表層雪崩発生に関わる降雪特性. 雪氷, 80, 131-147
選定理由:
 2017 年 3 月 27 日に南岸低気圧に伴う大雪により栃木県那須町の山岳域で表層雪崩による災害が発生した。一般に表層雪崩の発生要因としての短時間大雪の重要性が指摘されているが、南岸低気圧に伴う関東甲信地方の山岳域での短時間大雪については解析例が少なく理解が不足していた。そこで本論文では、本表層雪崩の事例について、短時間大雪の発生メカニズムについて事例解析を行うとともに、那須における短時間大雪の際の気象場や降雪の特性について統計解析を行った。
 その結果、南岸低気圧に伴う雲からの雪が地形性上昇流で発生した下層雲に作用し(Seeder-Feeder メカニズム)、局地的に短時間大雪をもたらしていたことを高分解能数値シミュレーションにより明らかにした。また、那須で大雪となる気圧配置は西高東低の冬型が 63%、低気圧が 30%であり、いずれも日降雪時間が長いほど日降雪深が大きいことを示した。さらに、低気圧による降雪の場合には例外的に短時間で大雪になることがあり、これらの事例の多くは閉塞段階の低気圧が関東付近を通過していた際に起こっていたことを明らかにした。
 本論文での事例解析では、気象庁アメダス、国土交通省水文水質データベース、気象庁の一般レーダーによる全国合成レーダー、地上気象観測、高層気象観測、地上天気図、メソ客観解析といったさまざまなデータの解析ならびに気象庁非静力学モデルを用いた数値実験が行われており、多角的な視点から短時間大雪の事例が客観的かつ詳細に分析されている。また、数値実験の結果より、地形の影響は山岳域での降雪種にも影響を及ぼし、弱層形成の要因となりうるという点まで踏み込んで考察が行われている。
 これらの成果は観測例の少ない太平洋側の山岳域での短時間大雪のメカニズムを理解する上で非常に有用であり、雪崩防災へも大きく貢献するものである。さらに、本論文の主著者は雪氷学分野の若手研究者として積極的に学術雑誌への投稿を行っている。
 以上の理由により、荒木健太郎氏を、論文賞の受賞候補者に選定した。

 

活動賞

受賞者名:杉村 剛 氏(国立極地研究所)
件  名:寒冷圏監視衛星データ利用の推進
選定理由:
 本会員は、寒冷圏の常時監視が可能な JAXA の地球観測衛星“しずく(GCOM-W)”のプロダクトをはじめとする過去のマイクロ波プロダクトを可視化公開する Web アプリ VISHOPや、これらの衛星を含むグリッドデータのオンライン可視化アプリケーション(VISION)の開発を行った。VISHOP はマイクロ波衛星によって得られる極域の海氷状況や環境をリアルタイムで公開しており、極域の現状を研究者だけでなく一般へも公開することにより、これらの衛星データの利用推進を図るものである。また VISION はオンラインで衛星データを可視化解析できることから、衛星利用の専門家以外の多くの研究者によって利用されている。
 これらのアプリケーションを用いた極域の海氷状況に関した広報活動は、国立極地研究所だけではなく、JAXA の広報にも利用されている。これらのサイトへのアクセス数は年間120 万(2016 年度)をカウントし、その 80%が海外の利用者からのものである。これらのアプリケーションは日本のみならず世界へ向けて非常に活発に情報を提供しており、北極・南極における海氷状況等を把握するのに重要なツールとなっている。有用な情報を日本発でタイムリーに発信し、世界中から多くのアクセスを得ている点は高く評価される。
 また、これらのアプリケーションの開発を通した寒冷圏監視衛星の利用の推進は表には出ない活動ではあるが、雪氷学における教育・普及活動として地道に継続されるべき重要な活動である。
 以上の理由により、杉村剛氏を、活動賞の受賞候補者に選定した。

 

2016年度受賞者

論文賞

受賞件名:島田 利元 氏(宇宙航空研究開発機構)
論  文  名:Shimada R, N. Takeuchi and T. Aoki (2016): Inter-Annual and Geographical Variations in the Extent of Bare Ice and Dark Ice on the Greenland Ice Sheet Derived from MODIS Satellite Images, Front. Earth Sci., 4:43. doi: 10.3389/feart.2016.00043
選定理由:
 近年の地球温暖化に伴い、グリーンランド氷床の急激な融解・縮小が懸念されている。グリーンランド氷床縁辺部では、毎夏、積雪が融解した後に広がる裸氷域に、反射率が低い領域(暗色域)が広がっていることが知られているが、暗色域が時空間的に氷床上にどのように分布しているのか、これまでその実態は未解明となっていた。推薦論文となる島田氏の研究は、米国航空宇宙局の地球観測衛星搭載光学センサMODISの観測データを独自の処理アルゴリズムで解析することにより、2000-2014年の15年間の長期にわたる裸氷域及び暗色域の時空間変動を世界で初めて明らかにした画期的なものである。本論文は、7月の裸氷域、暗色域の面積がともに15年間増加傾向にあり、過去に地上観測による報告事例が多かった氷床縁辺部の南西側以外にも広い範囲に暗色域が発達していることを明らかにした。また、融解域、暗色域が発達する要因について、裸氷域は気温との相関が高く、一方、暗色域は短波放射量と逆相関の関係にあることを明らかにし、暗色域の実態解明に多大なる貢献をしている。以上の内容により、論文賞として選定した。

 

受賞件名:ヌアスムグリ アリマス 氏(ゼノクロス航空宇宙システム)
論  文  名:Alimasi, N., H. Enomoto, J. Cherry, L. Hinzman and T. Kameda (2016): Winter-spring transition of ground conditions over Alaska derived by airborne 6 GHz microwave and infrared observations, 雪氷, 78(6), 365-382.
選定理由:
 推薦論文は、北極圏の山岳、植生や湿地などからのマイクロ波放射の観測結果をまとめたものである。また積雪と温暖化という気候変化の関係を知るうえで重要な融雪期注目し、低温期と融雪開始期、融雪後の変化にも注目し、3回の航空機観測を実施して成果をまとめている。
 衛星による雪氷観測ピクセルの中には多様な地表面状態が入るが、本論文では地上観測や衛星観測では得にくい北方森林域やツンドラの湖沼群や山岳の放射情報をまとめている。また、本論文の特長は、従来のマイクロ波観測ではあまり使われていない低周波の6 GHzの利用を検討し、積雪下の地表面情報を取得できる可能性を高め、今後の衛星観測技術の開発につながることが期待できる。
 本論文では、積雪被覆下でも凍結湖沼が検出できることや融雪開始期の積雪下での昇温、植生域での融解開始前後の赤外線とマイクロ波放射の増加の違いを確認した。また、融雪開始前後の低地と山岳の比較から、融雪前の寒冷期では高山域のほうが放射輝度の高いこと、融雪開始後はそれが逆転することを示し、新しい観測手法や得られる情報についてまとめている。さらに、衛星観測データから長期・広域の傾向を確認している。
 また、本論文は国際共同研究として実施され、その研究成果がまとめられたものであることも評価に値する。今後の研究や技術開発に向けて、本論文の前後にも関連論文を雪氷誌に掲載し、2016年11月からマイクロ波放射計を南極大陸に持ち込んで観測を実施していることも追記し、論文賞として選定した。

 

活動賞

受賞者名:荒木 健太郎 氏(気象庁気象研究所)
件  名:市民科学による雪結晶観測を通した雪氷知識普及の功績
選定理由:
 荒木会員は2016年度から気象研究所「#関東雪結晶 プロジェクト」を立ち上げ、関東甲信の市民を対象に降雪時の雪結晶の写真を募集し、首都圏の降雪現象の実態解明に関する研究を行っている。本プロジェクトにおいて荒木会員はスマートフォンを用いたごく簡易な雪結晶の観測手法を確立し、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)を通した観測協力の呼びかけ等により多数の市民が雪結晶観測に参加している。特に、20161124日の関東降雪事例では5100枚以上の雪結晶画像が集まり、世界で初めての市民参加による超高密度広域雪結晶観測が行われた。本プロジェクトの話題は新聞やTV、ラジオ、科学雑誌やwebニュース等の多くのメディアに取り上げられ、これにより雪結晶に関する知識や簡易観測手法が非常に多くの国民に広く普及された。さらに、荒木会員は20161210日に関東・中部・西日本支部主催のシンポジウム「関東の大雪に備える」の企画・運営で中心的役割を果たし、雪結晶を中心とした雪氷学の知識普及を行った。荒木会員は2017211日の北信越支部との共催の積雪観測&雪結晶観察講習会でも講師を行い、この他にも多くの一般向け講演や著書、SNSでの情報発信で雪氷知識普及を行っている。これらの雪氷学に関する教育・普及活動は顕著であり、活動賞に値するため選定した。


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