実験で作ろう!雲の模様~カルマン渦列~

実験で作ろう!雲の模様~カルマン渦列~

ドライアイスとお湯で霧を作り,空気の流れを見られるようにする実験です.実験机の上にカルマン渦列,前線や竜巻などをつくってみましょう!

本谷 研 (秋田大学教育文化学部)

印刷用PDFダウンロード

1. はじめに

ドライアイスとお湯で霧を作り,空気の流れを見られるようにする実験です.実験机の上にカルマン渦列,前線や竜巻などをつくってみましょう!(ただし,ドライアイス・お湯による凍傷・やけどにはくれぐれも
注意
してくださいね!!).

流れの中に置かれた物体の風下方向には不思議な渦巻きができることがあります.この渦(=カルマン渦)をつくってみましょう.人工衛星の画像をみていると海上の周りに何もない島などの風下に雲列としてカルマン渦が観察されることがあります(図1).


図1: 島の周りのカルマン渦(矢印)

ここでは風を吹かす代わりにビー球をドライアイスの霧の中に転がしてその後ろ側にできるカルマン渦を観察します(図2).水面に墨を流したところに,割りばし等を入れて動かしても同様のものができます.


図2

2. 消耗品と器具

消耗品

ドライアイス(粉状ではなく固まりのもの,1kgの板状(図3参照)に加工してもらうと便利.一時間当り6kgあると20~30人で繰り返し実験ができる)とお湯(20リットル以上,途中で補給できることが望ましい).


図3

器具

お湯を入れて大丈夫な広口の容器(例えば水槽),軍手(多数),アイスピック,ハンマー,廃段ボール(ドライアイスの下準備用).この他,片付け・水の処理用に雑巾多数があると望ましい.

3. 方法

準備

  1. ドライアイスおよびお湯を用意する.
  2. ドライアイスは板状またはブロック状のものをアイスピックやハンマーで1cm角以下の細かい塊に崩しておく(図4参照,加工時はかならず軍手を着用する.下に廃段ボールを敷き,床を傷めないようにする→図5参照).


図4


図5

実験

  1. 水槽の空気をドライアイスで冷やすと同時にお湯+ドライアイスで適当な量の霧を発生させておく(図6の①) .
  2. その後,ドライアイス寒気を黒い実験机の上に流し(図6の②),一定の厚みの霧が維持されるように霧層を作っておく.
  3. ドライアイス霧層の中へビー球を転がす.ビー球の速度がカルマン渦の発生条件を満たす速度範囲内ならばビー球の進行方向背後にカルマン渦(右巻,左巻が交互する渦)が観察できる.

ビー玉を転がす作業を観察者に行ってもらう.

観察者に「右・左巻き交互の渦ができること」「ビー玉を転がす速さがあまりゆっくりだと出来ないこと」を試してもらう.


図6: 霧層を作る

4. 注意すること(安全面で注意すること)

実験には,ドライアイスやお湯を使う.お湯は熱湯に近いものを使うし,ドライアイスは約-80℃と大変冷たく,素手で触れると大変危険であるので絶対に直接手で触れないよう注意させる(ドライアイスとお湯の扱いは基本的に大人が行うようにする).ドライアイスを触ってみたい観察者がいる場合は必ず軍手(2枚重ねが望ましい)を着用させる.お湯はなるべくこぼさないように注意する.

またドライアイスは気体の二酸化炭素になると約1000倍近い体積になるので容器に入れて密封したりしないように注意させる.ドライアイスを扱う時はときどき部屋の換気して酸欠を防止する

5. 解説

カルマン渦の由来

流れの中に渦ができることはかなり昔から知られていたが,カルマン渦について理論的な考察を行ったのはハンガリーの科学者セオドア・フォン・カルマン(1881生まれ1963年没)で,彼の名を取ってカルマン渦と一般に呼ばれるようになった.

カルマン渦ができる条件

流れの特徴を表す指標の一つにレイノルズ数がある.レイノルズ数(Re)の式は,流れの中に置かれた物体の大きさをD (m), 流速をU (m/s),流体の動粘性係数(粘り気を表す物性値,空気の場合は、1気圧、25℃で15.4×10-6(m2/s))をν(m2/s)として,

であるが,カルマン渦は102<Re<104の範囲で生じる.たとえば,1気圧,25℃の空気中でビー玉の直径が1.1cm、風速の代わりになるビー玉の移動速度をU(m/s)としてカルマン渦ができる速度範囲を求めると,0.14(m/s)<U <14(m/s)となり,手で素早くビー玉を転がすことで容易にカルマン渦ができること,14cm/s以下だとカルマン渦にならないことがわかる.

身近なところにあるカルマン渦

例えば、風が強い日に電線が「ビュービュー」と音を立てて鳴ることがあるのを多くの人は経験したことがあるのではないだろうか.これは,電線の周りにカルマン渦が発生し,その渦がはがれるときにこのような音を発するもためである(こうして発生する音を「エオルス音」という).縄跳びを跳んでいるときに,高速で回る縄が「ビュンビュン」と鳴るのも電線と同じ原理による.また,リード(振動部分)を持たない管楽器(フルートなど)で音を出すにもカルマン渦が関わっている.

訂正

平成25年7月1日 動粘性係数の誤記を訂正しました((誤)106 -> (正)10-6).

参考文献

[1] 高知大学気象情報頁:http://weather.is.kochi-u.ac.jp/(平成23年4月15日確認).

[2] 沢田石智,2011: カルマン渦実験による子どもの科学的探究心について, 平成22年度秋田大学教育文化学部卒業論文(指導教員:本谷 研).

[3] 白鳥敬,2010: 乱流と渦―日常に潜む不連続な“魔の流れ〟―,技術評論社,191pp.


「雪と氷の実験と工作」のContents