2011年度気象水文分科会オーガナイズドセッションおよび総会報告
2012年6月22日
日時:2011年9月20日17時30分~19時 総会19時~19時30分
場所:新潟県長岡市ハイブ長岡(長岡産業交流会館)雪氷研究大会A会場
●オーガナイズトセッション
今 年度の分科会オーガナイズドセッションとして、「水文気候システムの中での雪氷の振る舞い」というテーマで行った。話題提供者は、本田明治氏(新潟大 学)、ならびに上野健一氏(筑波大学)の2名であった。本田明治氏からは、研究大会の企画セッション「平成23年豪雪 -集中豪雪とその影響-」で、一般 向けに発表のあった話題を掘り下げ、より専門的な内容を盛り込んだ「2010/11年冬の大気循環場の特徴と日本の低温・大雪」についての発表があった。 バレンツ海・オホーツク海での海氷減少に伴った熱の放出の変動が、大気へ影響を与えることで、日本の寒冬や暖冬につながることが、データ解析と全球大気モ デルの数値実験によって示された。会場からの質問で、熱帯と北極域では、どちらの変動が日本の気候にとって重要なのかという質問があった。その回答とし て、本田氏は熱帯の影響の方がはるかに大きいという印象を述べ、北極における弱いシグナルを見つけることの難しさについて述べられた。次いで、上野健一氏 からは、自身の長年に渡るチベットでの研究成果を網羅した「チベット高原中央部における降積雪の真相」について発表があった。本田氏とは対照的に、上野氏 の用いた手法は、観測手法とデータ解析であった。その多くは、チベット高原での過酷な状況下で行われた観測であり、観測研究の重要性を感じさせられた。今 後残された課題として同氏が挙げたのは、降積雪分布量の不確実性(パッチ状の積雪分布と降水形態に応じた捕捉率変化)に対する定量的評価であった。大陸上 では降水量自体が少なく、不均一な積雪を介して派生する水熱収支と大気との相互作用の解明が重要である事が指摘された。今回の本田、上野両氏の話題提供か ら、筆者自身が感じたことは、海と陸に存在する雪氷の存在は、大気と応答することで、様々な気象・気候とつながっている。ただし、雪氷面積縮小は、単純に 温暖化とつながるということではなく、地球を回る大規模な大気循環の中で、地域への影響が異なることに留意すべきと感じた。
セッ ションの内容とは別に、今回の企画セッションの反省材料としては、夕方5時からの遅い時間からの開始となってしまったことが挙げられる。そのためか、図1 に見られるように空席が目立つ。来年度は、雪氷研究大会のプログラムの中での企画セッションに提案するなど、夕方の遅い時間からの開始を避けることや、他 の分科会との重複についても避けた方が良いなどの課題が残った。
図1 会場の様子(本谷研氏撮影)
●総会
今回の総会では審議事項は無く、報告事項のみであった。以下、各報告事項と主な議論を記す。
1.会長挨拶
兒 玉裕二会長より、最近の分科会に関係した活動紹介があった。主なものとしては、国立極地研究所を中心としたGRENE事業・北極、JPGUセッション「雪 氷圏と気候」の「雪氷学」への統合、雪氷辞典(改訂版)についてある。また、次期会長候補として、幹事・水津重雄氏を挙げ、自身の会長任期を来年度までと する方針説明があった。
2.「雪氷辞典について」
雪 氷辞典改訂に参加している幹事の斉藤和之氏から経緯紹介があった。2011年1月末、メーリングリストによる照会で、当分科会関連改定の用語の意見募集を 行った。現在は斉藤氏によって、追加用語と執筆担当候補が取りまとめられている。追加用語に関して、編集委員会としは、改訂前の雪氷辞典の用語に対して2 割増加程度に抑える方針であるが、当分科会からの新用語候補の数は問題ない。会場から、新たに「書く人」以外に「見る(吟味する)人」を設けたほうがよい との意見が出た.理由としては、記述内容についての専門性が低い場合が、前の辞典に見受けられたことによる。
3.昨年度会計報告,今年度事業計画
筆者が事務局として、昨年度会計報告ならびに今年度事業計画の報告を行った。
昨年度会計:支出、収入、収支共に0円
今 年度の事業計画として、分科会企画セッションの開催、メーリングリストの維持、分科会HP作成・公開を挙げた。さらに、雪氷辞典への協力についても事業計 画に入れたらどうかとの意見が出、雪氷辞典改訂への協力も加えることになった。講演会開催に関する提案については、学会開催期間と別に実施するのは難しい という意見が多数を占め、事業計画には採用しないことを決めた。
2011年度事業計画
・企画セッション開催
・メーリングリストの維持
・分科会HPの作成・公開
・雪氷辞典改訂への協力
4.その他
最 後に、2011年度の事務局体制を紹介した。さらに、分科会の会員数(70名で昨年から6名増加)と、会員数に比べて企画や総会への参加者が少ない現状に ついて報告した。来年度のオーガナイズドセッションのテーマについて、会場からの提案を募ったところ、雨雪判別や降水量観測法について提案があった。これ らは、来年度のテーマとして検討することにした。さらに、固体降水量補正(または雨雪判別)は、過去にも議論があったので、そういったテーマについては継 続的なフォローがあった方が良いとの意見が出た。
(海洋研究開発機構・地球環境変動領域 鈴木和良)
(C)日本雪氷学会