積雪分類の用語集

雪質(ゆきしつ):
grain shape
graphic symbol 説     明
日本語名 英 語 名 記号:F
新雪 new snow + 降雪の結晶形が残っているもの。みぞれやあられを含む。結晶形が明瞭ならその形(樹枝等)や雲粒の有無の付記が望ましい。大粒のあられも保存され指標となるので付記が望ましい。
こしまり雪 lightly compacted snow / 新雪としまり雪の中間。降雪結晶の形は殆ど残っていないがしまり雪にはなっていないもの。
しまり雪 compacted snow こしまり雪がさらに圧密と焼結によってできた丸みのある氷の粒。粒は互いに網目状につながり丈夫。
ざらめ雪 granular snow 水を含んで粗大化した丸い氷の粒や、水を含んだ雪が再凍結した大きな丸い粒が連なったもの。
こしもざらめ雪 solid-type depth hoar 小さな湿度勾配の作用でできた平らな面をもった粒、板状、柱状がある。もとの雪質により大きさは様々。
しもざらめ雪 depth hoar 骸晶(コップ)状の粒からなる。大きな湿度勾配の作用により、もとの雪粒が霜に置き換わったもの。著しく硬いものもある。
氷板 ice layer 板状の氷。地表面や層の間にできる。厚さは様々。
表面霜 surface hoar 空気中の水蒸気が表面に凝結してできた霜。大きなものは、羊歯状のものが多い。放射冷却で表面が冷えた夜間に発達する。
クラスト crust 表面近傍にできる薄い硬い層。サンクラスト、レインクラスト、ウインドラスト等がある。

<新雪>

積もった直後の雲粒の付いていない樹枝と広幅六花
<こしまり雪>

樹枝の一部が残っているもの
<しまり雪>

典型的なしまり雪

<ざらめ雪>

ぬれて間もない小さな粒の集合したもの
<こしもざらめ雪>

新雪から変態したもの
<しもざらめ雪>

発達したしもざらめ雪の粒をばらばらにしたもの

<氷板>

水平方向に広い範囲で連続した厚い氷板。このような厚い氷板はそれほど多くない。
<表面霜>

形成直後のもので輪郭がシャープである
<サンクラスト>

表面のクラスト(薄い板状の氷)をはぎ取ったもの

(日本雪氷学会「積雪・雪崩分類」(1998)より) 


〜エッセイ (1)〜
しもざらめ雪・昔話


 空知川上流の金山湖ができる前に、今の湖の上流端に近い幾寅(いくとら)営林署の苗圃で雪の観測をしたことがある。3月のある日、道路から観測地点まで、足跡の無い雪原を50mほど、まず私がふつうに歩いた。ところが同僚の2人は一歩毎に膝の上まで雪に埋って大層難儀をした。「雪の上を歩くには左足が埋らないうちに右足を着き、それを左右交互にくり返せばよい。」と私はつぶやいた。半ば冗談だが、半分まじめでもあった。私だけが楽に歩けたのは、実は私が異常に軽量なうえ、底が特別に広くて平らな靴で気をつけて歩いたからではあるが、とにかくここは深さ60cmの積雪の下半分が特別に脆い「しもざらめ雪」だったのである。

 この種の雪は、積雪が少なくて寒さが厳しいという条件が長く続くと、積雪の下層にでき易い。北海道の平地なら、深さ60cmも積れば雪の下面の温度は0℃に近く保たれる。一方、表面の温度は昼夜で大きく変る。常に最も温度が低いのは表面下20cmほどで、その下では上ほど低いという温度分布が続き易い。雪が深いと、この部分の温度勾配が小さくなって霜は発達せず、古い雪は硬い「しまり雪」となる。幾寅の雪に穴を掘って縦の壁面をよく見ると、積雪の下半分は霜の結晶が縦に連って全体が粗な構造になっていた。道具を使わずに手でその雪を横から押すだけで簡単に崩れるほどであった。一方この雪は、縦に静かに加わる圧力には、かなり持ち堪えるという性質がある。

 しもざらめという名称は(55年ほど昔だが)札幌管区気象台の斉藤練一氏の発案によるものではなかったかと思う。ヨーロッパでは古くから知られていて、ドイツ語ではSchwimm Schnee(泳ぐ雪)、英語ではdepth hoar(深部霜)という。日本雪氷学会1998年発行の「積雪・雪崩分類」に霜ざらめを含む各種の積雪粒子の写真が沢山掲載されている。

(北大名誉教授 小島賢治)



〜エッセイ (2)〜
ミクロ積雪学 事始め


 北海道では冬になると、日本海側や山々は深い雪に覆われる。積雪の表面付近はフワフワの「新雪」であるが、深くなるにつれ雪は次第に硬さを増し、スコップで真四角に切り取れる「しまり雪」となる。雪が少なく寒さが厳しい地方では、積雪の深部に脆くて弱い「霜ざらめ雪」が発達する。山岳部の積雪内に霜ざらめ雪が形成されると、雪崩発生の原因となる。やがて春が来る。雪解けが進み雪が水を含むと、新雪もしまり雪も、大粒の「ざらめ雪」に変わる。

 このような色々な積雪の物理的性質を理解するには、雪内部の微細構造、例えば、雪粒同士がどのように繋がり合っているのか、一つの雪粒は何個の雪粒と連結しているのか、雪粒の形状、雪粒の「大きさ分布」などを知る必要がある。そのためには、厚さ0.3mmくらいの「薄片」試料を積雪から切り出し、そのミクロな構造を顕微鏡の下で調べればよい。でも雪を壊さないで薄片を作ることは大へん難しい。これは積雪研究の初期から世界の雪氷学者の夢であった。世界の雪の研究者が色々と試みたが、なかなか上手くいかなかった。

 昭和30年代の初頭(1955-60)、北大低温研では吉田順五教授の指導の下、積雪の力学的、電気的、光学的、音響学的性質など、積雪の物理的性質の総合研究が精力的に進められていた。得られた雪の性質を理解するには、雪内部のミクロな構造を知ることが必要不可欠である。ある日、吉田先生が木下誠一さん(後に教授)と私に「何とかして積雪の薄片を作れ」という。鬼と云われた吉田先生の命令である。 幸運にも短期間で薄片作成に成功し、どんな雪でも簡単に薄片が出来るようになった。ミクロ積雪学の幕開けである。

 これを使えば「積雪の圧密過程の研究が出来る」と、早速「薄片圧縮装置」を作り、しまり雪の薄片をゆっくり圧縮してみた。何回も失敗する内に、雪粒や雪粒同士の連結部が塑性・破壊変形しながら雪全体が圧密・氷化していく過程が顕微鏡の下で見られるようになった。実験結果を北海道支部の創設を機に札幌で開かれた雪氷学会全国大会で発表すると、たまたま議長だった中谷先生が特に発言され、「只今の若濱君の発表は積雪のミクロな変形に関する世界最初の研究です。この実験によって若濱君は積雪内部のミクロな変形を見た人類最初の人になったわけです」と大勢の聴衆の前で誉めて下さった。先生の誉め上手は有名だが、若い私にとって大きな励みとなった。 中谷先生は常々「欧米の真似事、二番煎じは絶対にするな。世界最初のオリジナルな研究をせよ」と我々に諭されたが、小さいながら、先生に報いることが出来て幸せであった。

(北大名誉教授 若濱五郎)


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(社) 日本雪氷学会北海道支部