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凍土と人工凍土壁についてのQ & A

2014.12.19 雪氷学会・凍土分科会    


    I. 凍結工法に関する公開資料
     [Q. I-1] 凍結工法の教科書やマニュアルはありますか?
     [Q. I-2] 福島原発の凍土遮水壁の公開情報はどこにありますか?

    II. 凍結工法の実績に関して
     [Q. II-1] 施工の歴史を教えて下さい
     [Q. II-2] 施工件数を教えて下さい
     [Q. II-3] 適用工事を教えて下さい
     [Q. II-4] 代表的な施工事例は何ですか?
     [Q. II-5] 凍土壁の規模を教えて下さい
     [Q. II-6] 施工期間を教えて下さい
     [Q. II-7] 電力はどの程度使うのですか?
     [Q. II-8] コストはどの程度かかるのでしょうか?
     [Q. II-9] 凍結工事の施工会社はどのようなところでしょうか?
     [Q. II-10] 国外に凍結会社はありますか?
     [Q. II-11] 遮水壁として凍土壁を用いたことはありますか?
     [Q. II-12] 放射能汚染水の隔離に人工凍土壁を使ったことはありますか?

    III. 凍土物性に関して
     [Q. III-1] 凍土壁自体の難透水性を教えて下さい。
     [Q. III-2] 埋設物を巻き込む凍土壁の遮水性を教えて下さい
     [Q. III-3] 凍上問題はどんな場合に起こりますか?

    IV. 凍結工事の計画・施工に関して
     [Q. IV-1] トンネルでの地盤凍結工法において最も重要な技術的課題(留意ポイント)は何でしょうか?
     [Q. IV-2] 限界地下水流速はどの程度でしょうか?
     [Q. IV-3] 夏場の凍結阻害はあるのでしょうか?
     [Q. IV-4] 凍結管の埋設誤差への対策を教えて下さい
     [Q. IV-5] 電力供給が停止した場合、凍土壁維持にどの程度時間的余裕はあるのでしょうか?

    V. 福島原発の凍土遮水壁に関して
     [Q. V-1]既存凍結工事と福島原発での凍土遮水壁との相違点を教えて下さい
     [Q. V-2]直感的に凍土遮水壁は成功するのでしょうか?
     [Q. V-3]海水配管トレンチの凍結工事と遮水凍土壁の凍結工事ではどう違うのでしょうか?

    VI. その他
     [Q. VI-1] 地盤凍結工法の先生は居られるでしょうか?



  1. 凍結工法に関する公開資料

    [Q. I-1] 凍結工法の教科書やマニュアルはありますか?
    [A. I-1]
    *日本雪氷学会:凍土の知識 -人工凍土壁の技術-,雪氷、76巻2号(2014)
    地盤工学会:地盤改良の調査・設計と施工(2013)
    *軟弱地盤改良工法−調査・設計から施工まで(1988)
    *土質工学会(現 地盤工学会):土の凍結−その理論と実際−(1994)
    *土質工学会(現 地盤工学会):土の凍結−その制御と応用−(1982)
    *森北出版;凍土の物理学(1982)
    *日本建設機械化協会:地盤凍結工法・計画、設計から施工まで(1982)
    *一般的には販売されていない、または、廃刊されたもの
    1980年代には学会や協会等から凍結工法に関係する専門書が多数出版されましたが、その後、工事実績や技術確立し出版物の改訂を経て、今日に至っています。

    [Q. I-2] 福島原発の凍土遮水壁の公開情報はどこにありますか?
    [A. I-2}
    たとえば、経済産業省のホームページ(陸側遮水壁タスクフォース(第13回)



  2. 凍結工法の実績に関して

    以下の実績は、トンネル工事における地盤を掘削する際の土水圧力に対抗する土留壁の凍結工法に関するものです。

    [Q. II-1] 施工の歴史を教えて下さい
    {A. II-1]
    海外初施工:1862年にイギリスで鉱山立坑掘削工事での帯水層崩落防止に適用されたのが、最初といわれています。なお、都市土木では、1882年にスエーデンの歩道トンネル工事に適用されています。
    国内初施工:1962年に、大阪府での河底横断水道管敷設工事に適用されました。


    [Q. II-2] 施工件数を教えて下さい
    [A. II-2]
    我が国の凍結会社の国内実績は、年間で平均10件程度。1962年から始めて52年間続いており、約600件あります。
    我が国の凍結会社の海外実績としては、地盤凍結工事が16件(台湾15件、香港1件:施工中)あります。


    [Q. II-3] 適用工事を教えて下さい
    [A. II-3]
    件数的には下水道工事が一番多く(約40%)、地下鉄、電力線、地下河川(貯留池)、地下道路などです。


    [Q. II-4] 代表的な施工事例は何ですか?
    [A. II-4]
    東京湾アクアラインのシールド発進防護・地中接続防護です。


    [Q. II-5] 凍土壁の規模を教えて下さい
    [A. II-5]
    通常の凍土壁の長さ(深さ、幅)は、5 m〜30 mです。
    地盤掘削工事の補助としてその工事期間内のみ造成・維持される凍土量は、通常は、1ヶ所で200 m3〜7,000 m3(東京アクアラインの川崎人工島発進防護工事)でした。
    なお、我が国の最大凍土量は、東京・九段下における河底横断地下鉄工事の37,700 m3でした。


    [Q. II-6] 施工期間を教えて下さい
    [A. II-6]
    通常の凍土造成期間は1〜2ヶ月間であり、造成後の地盤掘削防護の凍土維持期間は1ヶ月間〜2年間です。
    なお、凍結工事の施工期間は上記ですが、凍結設備自体は複数現場で繰り返し使用しており、十分な管理の下では10年間以上は冷却に用いています。また、凍結管に不具合があった場合には、増し打ちや入れ替えなど対応が可能です。


    [Q. II-7] 電力はどの程度使うのですか?
    [A. II-7]
    通常の凍結工事における凍結ユニットの稼動に必要な電力は、37 kwh〜300 kwhです。


    [Q. II-8] コストはどの程度かかるのでしょうか?
    [A. II-8]
    凍結工事のコストは、現場施工の制約に大きく左右される準備工事(仮設工事)や、工事毎に違う凍土壁維持工事に大きく依存します。凍土のm3単価はなく、凍結工事の物件毎に見積るしかないようです。


    [Q. II-9] 凍結工事の施工会社はどのようなところでしょうか?
    [A. II-9]
    トンネルでの凍結防護工事は、大手ゼネコンが受注され、総合施工管理されています。
    地盤凍結工事は国内で2社が施工しており、これまでに600件近い施工実績があります。


    [Q. II-10] 国外に凍結会社はありますか?
    [A. II-10]
    ヨーロッパや米国にあります(ただし、地盤改良全般を実施する企業が多く、一部に凍結専門企業もあります)。


    [Q. II-11] 遮水壁として凍土壁を用いたことはありますか?
    [A. II-11]
    本来の凍土壁の用途はトンネル掘削の土留め壁(耐力壁)ですが、同時に止水壁としても機能しています。


    [Q. II-12] 放射能汚染水の隔離に人工凍土壁を使ったことはありますか?
    [A. II-12]
    アメリカの凍結会社が、米国オークリッジで実証試験はしたようです。



  3. 凍土物性に関して

    [Q. III-1] 凍土壁自体の難透水性を教えて下さい。
    [A. III-1]
    凍土の透水係数に関する過去の研究では、-1 ℃で10-14 cm/secレベルの計測がされています。また、温度低下により、透水係数は顕著に減少するという研究結果があります。
    凍土壁中心部にはマイナス温度が最も低い凍結管が列状に存在するため、凍土壁中心面では温度が-10 ℃以下であり、工学的には透水性は無いものと見なされています。


    [Q. III-2] 埋設物を巻き込む凍土壁の遮水性を教えて下さい
    [A. III-2]
    トンネル掘削防護凍土では、埋設物などを巻き込む工事の施工実績があり、巻き込んだ場合の遮水性を確保する方法はあります。


    [Q. III-3] 凍上問題はどんな場合に起こりますか?
    [A. III-3]
    砂層は問題ありませんが、粘性土では凍結工法が適用される地下数十mの条件では3〜6%の凍結膨張を生じるため、許容変位量が小さい構造物に凍土壁が近い場合に問題になる場合もあります。このような場合には、事前に凍結膨張対策が行なわれています。



  4. 凍結工事の計画・施工に関して

    [Q. IV-1] トンネルでの地盤凍結工法において最も重要な技術的課題(留意ポイント)は何でしょうか?
    [A. IV-1]
    掘削防護の土留凍土壁では凍土の強度が必要であるため、各種凍土強度の温度特性把握、凍土壁の温度分布の計測管理が必要になります。
    近接構造物の許容変位が決まっている場合には、粘性地盤の凍上特性把握、凍上予測と計測管理、凍結膨張対策(必要凍土量を造成したのちの凍土壁維持期間中の凍土厚増加の制御を含む)の検討が必要となります。


    [Q. IV-2] 限界地下水流速はどの程度でしょうか?
    ここで言う地下水流速とは、凍結工事以前の凍結対象域の地下水流速であって、決して、凍結管から成長する凍土柱間の局所的な地下水流速ではありません。

    [A. IV-2]
    トンネルでの凍結工事では、凍結前の地下水流速1〜2 m/日が(凍土壁連続のための)限界地下水流速の経験的な目安(なお、1 m/日の地下水流速はほとんど経験しない速い流速)です。ただし、凍土を作る範囲やその他条件によって限界地下水流速は変わります。なお、地下水流速の影響で凍結工事中の地盤温度低下が遅い可能性が計測された場合には、地下水流上流側に薬液注入を行い流速を下げ連続する凍土壁が造成されています。


    [Q. IV-3] 夏場の凍結阻害はあるのでしょうか?
    [A. IV-3]
    地表面から10 m以深では、季節による地盤温度変動はほとんどなく、これまでのトンネルでの凍結工事はそれ以深であるから、基本的に夏場の凍結阻害はありません。ただし、凍結システムの冷凍能力低下は、1〜2割程度生じるようです。
    なお、地表面から地盤凍結する場合には、地表面からの熱の侵入を抑制するために防熱などの対策が可能であります。

    [Q. IV-4] 凍結管の埋設誤差への対策を教えて下さい
    [A. IV-4]
    凍結管を地盤に埋設した後に、凍結管の孔曲がり測定が行なわれています。その結果、計画以上に隣接する凍結管間の距離が開いていた場合には、凍土造成期間の延長や凍結管の増設などの対策が行なわれています。


    [Q. IV-5] 電力供給が停止した場合、凍土壁維持にどの程度時間的余裕はあるのでしょうか?
    [A. IV-5]
    凍土壁を地盤掘削防護の土留目的に用いる場合には、凍土壁の強度はマイナス温度で確保されるため、電力の回復は急務となります。一方、凍土壁を遮水目的として用いる場合には凍土壁の連続性が保たれればよく、周辺地盤に接する凍土壁表面の融解は緩やかであるため、土留目的に比べ時間的猶予はあります。なお、各現場条件から熱計算により時間的猶予は想定できます。また、電力停止に備えて、自家発電機を現場に置く方法もあります。



  5. 福島原発の凍土遮水壁に関して

    [Q. V-1]既存凍結工事と福島原発での凍土遮水壁との相違点を教えて下さい
    [A. V-1]
    既存凍結工事は、都市トンネルでの掘削防護において、強固であるが比較的少ない凍土壁を造成してきました。一方、福島原発の凍土遮水壁は、広い幅の地下水流を遮水する凍土壁である点は異なります。
    また、大規模凍土量や長期凍結運転という点でも、既存凍結工事とは異なります。


    [Q. V-2]直感的に凍土遮水壁は成功するのでしょうか?
    {A. V-2]
    一般的に凍土壁は水を通さないため、遮水壁として優れています。福島第一原発では、経済産業省・資源エネルギー庁のタスクフォースの評価・助言のもと、事業者は成功に向けて鋭意検討をされているようです。凍土分科会は公開情報以外を持っておらず詳細は知りません。このため答えるべき立場にはおらず、コメントは難しいと思われます。


    [Q. V-3]海水配管トレンチの凍結工事と遮水凍土壁の凍結工事ではどう違うのでしょうか?
    [A. V-3]
    H26年春から冷却開始された2号機および3号機の海水配管トレンチの凍結工事では、流水を凍結管で凍らせる工事であるため、土中域の凍結工事である凍土遮水壁とは現象が異なると考えられます。



  6. その他

    [Q. VI-1] 地盤凍結工法の先生は居られるでしょうか?
    {A. VI-1]
    古くは京都大学・村山教授などが居られましたが、技術がほぼ完成した今日では、地盤凍結工法を専門にしている大学などの研究室は見当たりません。
    なお、北海道や北極圏の寒冷地での自然凍土については、北海道などの大学の研究室で研究が行なわれています。
    また、LNG地下貯蔵タンク周辺地盤の人工凍土壁については、1980年前後にガス、電力、ゼネコン各社で、実験や解析が行なわれていました。


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