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しもざらめ雪・昔話

北大名誉教授・小島 賢治

しもざらめ雪・昔話

 空知川上流の金山湖ができる前に、今の湖の上流端に近い幾寅(いくとら)営林署の苗圃で雪の観測をしたことがある。3月のある日、道路から観測地点まで、足跡の無い雪原を50mほど、まず私がふつうに歩いた。ところが同僚の2人は一歩毎に膝の上まで雪に埋って大層難儀をした。「雪の上を歩くには左足が埋らないうちに右足を着き、それを左右交互にくり返せばよい。」と私はつぶやいた。半ば冗談だが、半分まじめでもあった。私だけが楽に歩けたのは、実は私が異常に軽量なうえ、底が特別に広くて平らな靴で気をつけて歩いたからではあるが、とにかくここは深さ60cmの積雪の下半分が特別に脆い「しもざらめ雪」だったのである。

 この種の雪は、積雪が少なくて寒さが厳しいという条件が長く続くと、積雪の下層にでき易い。北海道の平地なら、深さ60cmも積れば雪の下面の温度は0℃に近く保たれる。一方、表面の温度は昼夜で大きく変る。常に最も温度が低いのは表面下20cmほどで、その下では上ほど低いという温度分布が続き易い。雪が深いと、この部分の温度勾配が小さくなって霜は発達せず、古い雪は硬い「しまり雪」となる。幾寅の雪に穴を掘って縦の壁面をよく見ると、積雪の下半分は霜の結晶が縦に連って全体が粗な構造になっていた。道具を使わずに手でその雪を横から押すだけで簡単に崩れるほどであった。一方この雪は、縦に静かに加わる圧力には、かなり持ち堪えるという性質がある。

 しもざらめという名称は(55年ほど昔だが)札幌管区気象台の斉藤練一氏の発案によるものではなかったかと思う。ヨーロッパでは古くから知られていて、ドイツ語ではSchwimm Schnee(泳ぐ雪)、英語ではdepth hoar(深部霜)という。日本雪氷学会1998年発行の「積雪・雪崩分類」に霜ざらめを含む各種の積雪粒子の写真が沢山掲載されている。

 

(北大名誉教授・小島 賢治)

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