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2017年度 地域講演会

— カテゴリ:

稚内市:南極での生活と観測 -みずほ基地,あすか基地,ドームふじ基地-

2017年度地域講演会の開催報告

1.開催概要

日本雪氷学会北海道支部では,雪氷に関する啓蒙普及活動を目的として地域講演会を札幌以外の北海道各地において毎年開催している.
2017年度の地域講演会は,稚内市において開催された.稚内市は,南極観測で活躍した樺太犬であるタロとジロの故郷であり,また観測に使われた初代砕氷船「宗谷」も稚内の地名から付けられているなど,南極にゆかりのある都市でもある.
市内には,南極経験者が5名ほど在住しており,「南極」の言葉が市民の身近にある.一方,市民は,越冬隊員の暮らしぶりや観測の実際を知る機会が多くないことから,南極観測と雪氷学に対する理解を深める目的で講演が開催された.開催概要は以下のとおりである.

 

・講演会の概要
  講演会名:「南極での生活と観測 -みずほ基地,あすか基地,ドームふじ基地-」
  講演1.みずほ基地とあすか基地の越冬生活
  高木知敬(稚内市立病院 地域連携サポートセンター長)
  講演2.ドームふじ基地での生活と観測
  亀田貴雄(北見工業大学教授)
  日時:2017年9月10日(日)15:00~17:30
  会場:稚内市立図書館
  主催:日本雪氷学会北海道支部
  共催:南極OB会北海道支部道北分会
  日本極地研究振興会稚内支部
  後援:稚内市,稚内教育委員会
  参加者:30名

 

2. 講演の模様

講演は,南極での越冬経験者の2名によって行われた. 初めの講演は,第21次及び第28次越冬隊の医学・医療担当越冬隊員として派遣された高木氏によるものである(図1).高木氏は,市立稚内病院の院長を歴任するとともに,現在は,同病院の地域連携サポートセンター長として活動しており,医師として市民に広く知られている.高木氏からは,1979年,1986年の観測隊の様子や,現在は降雪によって使われなくなった「あすか・みずほ基地」における当時の生活などが紹介された.限られた人員・設備の中で発生した重傷事故の治療のほか,医療研究,無線担当,基地建設等,越冬隊員として広範な作業に従事した生活の様子が紹介されている.講演の中では,氷点下30度以下の寒さに慣れるだけで,相当なカロリーを消費することや,過酷な環境の中で精神衛生を保つことの重要性について説明があった.南極観測隊は,広く知られる日本代表のスポーツチームと同様に,ナショナルチームであり,家族はもとより,日本とつながっていることが隊員任務を行う上で精神的な支柱になっている点も述べられた.

 

高木氏による講演の様子

図1 高木氏による講演の様子

 

2番目の講演は,第36次及び第44次越冬隊として派遣された亀田氏によるものである(図2).亀田氏は,ドームふじ基地において,液封型深層掘削ドリルの設置,過去の気候変動を推定するための氷床深層掘削作業を経験しており,現在,北見工業大学の地球環境工学科の教授として,雪氷科学研究室を主宰している.講演では,最も近い基地から1000kmほど内陸,かつ標高が3810mと,特殊な環境に置かれたドームふじの基地の自然や生活の様子が報告された.また,氷床コアを解析して得られた過去72万年の気温の変動,過去32万年間の気温とCO2の変化の特徴も紹介された.講演中には,氷期の到来と最近の地球温暖化との関係について説明があった.気候変動は科学的に解明されていないことが多いことに触れ,北海道においては,昨今話題となっている地球温暖化対策を進めることに併せて,農業に関しては,寒冷化対策も視野に入れておくことが重要との認識が述べられた.
高木,亀田両氏の越冬時期は1980年前後,2000年前後と20年近い開きがある.両氏の講演は,学術的な枠を超えた生活体験が平易に述べられたこともあり,市民が南極観測の歴史や雪氷学と暮らしの関係を身近に知るきっかけになったと感じている.

 

亀田氏による講演の様子

図2 亀田氏による講演の様子

 

3.おわりに

本講演会へは,地元在住の南極越冬経験者のほか,今期より南極越冬隊員として派遣される予定の医師も参加し,市民との交流が行われた.
本講演会を含む一連の交流や活動は,稚内市が「南極観測のふるさと」を目指していることを印象づけるものであり,雪氷学だけではなく,積雪寒冷地域における教育・観光に一助する有用な資源になると捉えている.

 

謝辞

開催にあたり,稚内市、稚内市教育委員会、南極OB会北海道支部道北分会には会場の手配から運営に至るまで全面的なご協力を賜りました.ここに記して感謝申し上げます.
(北海道立総合研究機構 高倉政寛)

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