Japanese Society of Snow and Ice

コンテンツに飛ぶ | ナビゲーションに飛ぶ

連絡先

公益社団法人日本雪氷学会 北海道支部
 事務局 北海道大学低温科学研究所
〒060-0819 札幌市北区北19西8
(担当:的場)
お問い合わせ連絡フォーム

パーソナルツール
現在位置: ホーム 活動報告 地域講演会 2003年度 地域講演会

2003年度 地域講演会

— カテゴリ:

旭川:「すべる!」を知る

2003年度 地域講演会 

テーマ:「すべる!」を知る

~各分野の取り組みと共通点~

主 催:(社)日本雪氷学会北海道支部

共 催:北海道立北方建築総合研究所

日 時:2004年1月28日(水)13:30~17:00

場 所:北海道立北方建築総合研究所多目的ホール

参加者:約150名

プログラム:

A.講演会

・基調講演 「暮らしとすべり」

秋田谷英次氏(北の生活館)

・話題提供

(1)「道路の摩擦係数」

浅野基樹氏(北海道開発土木研究所)

(2)「建物まわりのすべり研究」

林 昌宏氏(北方建築総合研究所)

(3)「冬期バリアフリーとすべり」

新谷陽子氏(北海道開発技術センター)

(4)「スキーとスケートのすべり」

対馬勝年氏(富山大学理学部)

・パネルディスカッション

コーディネーター:

原文宏氏(北海道開発技術センター)

パネリスト: 各講演者

B.北方建築総合研究所 実験施設見学会

2003image2.jpg

 講演会会場の様子

「暮らしとすべり」:秋田谷英次氏

昔から雪道というものはすべるものである。車の無かった時代には凍った道は無かったため,靴に荒縄を巻くなどの工夫や,馬そりの馬は鉄のピンのついた蹄鉄をするといったことで十分対応できた。つるつる路面は,スタッドレスタイヤの出現とともに出現した。ここ数年における歩行者転倒事故による救急車出動件数を見ると,スタッドレスタイヤの普及により件数が急増している。その後,歩き方の変化や凍結防止剤,ロードヒーティングなどにより減少傾向にあるが,大学のゼミ内で行ったアンケートではすべりによる事故は多いという結果が得られた。凍結路面を解消ためにはロードヒーティングが一番良い。しかし,実際には膨大な費用がかかってしまい現実的ではない。金をかけずにすべらない方法は今のところ無い。雪道は当然すべるということを忘れずに,雪を知り、氷を知り,人が危険を判断し状況に合わせた生活をすることが重要である。

「道路の摩擦係数」:浅野基樹氏

道路設計において摩擦係数は,道路構造令に定められているところで,制動停止視距の算定に標準タイヤを使用した湿潤状態の摩擦係数が使われている。寒冷地においては摩擦係数f=0.15とし算定を行っている。また,雪氷路面での横滑りの摩擦係数を最小曲線半径により安全性をチェックしている。冬期間におけるスリップ事故の統計をみると,当然ではあるがスパイクタイヤよりスタッドレスタイヤにおけるスリップ事故が多い。札幌市内における日当りスリップ事故件数と日平均気温をみると,-4~-3℃の間において事故が多発している。また,国道におけるスリップ事故発生状況では,-5~0℃の間で最も多く発生しているという傾向が見られる。積雪路面は夏期の路面とは全く状況が異なるので,安全速度を理解し,なおかつ慎重な運転を心がけることが重要である。

「冬期バリアフリーとすべり」:新谷陽子氏

近年,スパイクタイヤの減少などにより転倒事故の発生が多くなっている。なぜ人はすべって転ぶのか考えると,運動機能や認知度などの内的要因および路面状況などの外的要因が挙げられる。横断歩道における歩行者の転倒状況を分析したところ,横断歩道の始点および終点にみられる勾配部分と,ブラックアイスバーン時の横断歩道中央部で多く発生している。そこで,横断勾配および縦断勾配を変化させることができる模擬路面を作製し,横断歩道の歩行時を想定した歩行実験を行った。その結果,横断勾配の変化が歩行者に危険を及ぼすことが明らかとなった。また,歩行者心理状況とすべり摩擦測定の結果に差異がみられた。このことから,転倒事故減少のためには、路面状況のコントロールだけではなく,歩行者の安全行動を考慮したうえでの・・・・が重要ではないかと考える。


2003image4.jpg
 秋田谷英次氏の基調講演の様子

「建物まわりのすべり研究」:林昌宏氏

建物まわりにおけるすべりの課題として,すべり性状を評価するすべり試験方法が標準化されていないことが挙げられる。そこで,JIS A 1454に規定されているすべり試験機を用い,すべり性状評価の標準化に向けた試験条件の検討を行った。試験機で評価をする場合,実現象とどこまで近似させることができるかが重要になる。そこで,雪条件,実験温度および雪径の検討を行った。雪条件に関して,氷を削った氷粉を人工雪とし自然雪と測定値を比較すると,良い相関性が得られた。また,温度条件の差異による実験結果および雪径の差異による実験結果から、それぞれ良い相関が得られたため,実験室温条件-5℃,雪径大という実験条件で問題は無いと判断した。本実験により,雪のある状態でのすべり性状および歩行安全性の検討に床すべり試験機を用いることができる可能性が高くなった。今後はスロープでの検証を加え,安全な歩行空間のためのデータ整理をしていく。

「スキーとスケートのすべり」:対馬勝年氏

スキーとスケートにおけるすべりの探求は3世紀にわたる課題である。伝統的な学説として,摩擦による融解水が発生しすべりやすくなるという摩擦融解説が唱えられてきた。スキーの底はできるだけ硬いほうが良い,雪面が硬いと摩擦係数が小さくなるなど,さまざまな研究よりすべりが導き出された。スケートにおいて世界で始めて摩擦係数0.004という驚異的な数字が計測された。また,温度変化による摩擦係数の変化を計測した研究によると,温度が高くても低すぎてもすべりにくくなり,-7℃前後が最適であるという結果が得られた。近年行われた長野オリンピックで使用された氷旬リンクは,従来使用されてきたリンクより16%の摩擦低減に成功した。しかしこれまでの研究結果より摩擦融解説に内部矛盾点生じた。それは,すべりを良くするために摩擦を低減することは,融解水が発生しにくくなりすべらなくなると考えられるためである。そこで,氷は硬く付着力が小さいため,せん断強さが小さいので摩擦も小さくなるのではないかとする凝着説を考えた。スキーとスケートにおけるすべりは,水が無くても良くすべるということがいえる。また,氷の結晶をコントロールできればすべるようになるのではないかと考える。


パネルディスカッション

 

Q究極の防滑,究極のすべりは実現するのか?

浅野 氏:

すべらない運転は速度を落とす以外には無でしょう。全くすべらないタイヤは不可能ではないでしょうか。スタッドレスタイヤでスパイクタイヤの性能を得ることは考えられませんが,今以上にすべりにくいタイヤは実現可能だと思われます。開発に期待したいと思います。路面状況の改善は,凍結防止剤,すべり止め剤などの活用が考えられ,今以上にすべりにくくする製品の開発に期待したいと思います。


林 氏 :

室内の床を考えた場合,ある程度までは高めることが可能だと思います。ただし,外部の床を考えると,除雪などで床面上の雪をいかに少なくするかが重要だと思います。単純に床の摩擦を上げてしまうと,除雪しにくいなどの不都合が生じてしまいます。また,室内に持ち込まれる雪の事も考えなければならないので,床だけでの解決は困難だと思います。注意書きなどで人々に呼びかけるなどの人の管理もポイントになると考えています。

新谷 氏:

究極の防滑靴を考えるには,まず,ある条件の中で歩くには最適であるという前提でなければならないのではないでしょうか。凍結路面では全くすべらない靴でも,室内ではすべらなさすぎてつまずくなどの弊害が考えられます。床と同じように靴だけでの解決は困難だと思います。すべって転んで怪我をすることが問題なのであって,すべっても怪我をしない,または回避するような行動をとるという方向でなければ対応は難しいのではないかと思います。

対馬 氏:

フェアに考えなければ,特定の人物に有利なリンクは作れるでしょう。スケートやスキーでは,摩擦力より空気抵抗のほうが比重は大きく,この空気抵抗をコントロールできなければすべりをコントロールすることはできないと考えています。そのためにも、今度,帯広にできる室内スケートリンクではぜひ減圧できるようにしてもらいたいです。


秋田谷氏:

これからは高齢者が問題になってきます。すべるから外出しないという考え方ではなく,雪を逆手にとって腰を痛めない除雪方法もありますから,雪が降ったら自ら除雪をするなどして体を鍛えてすべって転んでも怪我をしないように体を作っておくようにする。どういう道がすべるかを判断する能力を身に付けておくことが大切だと思います。


Q 我々はこれからどうすべりと付き合っていけば良いでしょうか。

林 氏 :

これからは,製品の情報が整理されてくれば良いのではないでしょうか。この条件ではすべるとか,このくらいであれば安全であるという情報を伝える工夫が重要になってくると考えています。自らどういう床かを認知する能力を備えることも重要だと思います。

新谷 氏:

いつどういった条件ですべり,転倒しやすい状況になるのかを予測できる天気予報のようなシステムの提供により一人一人が注意し行動していくことや,靴を選ぶときにも標準化された指標みたいなものが出来れば良いと思います。これからは,ハードだけではなく,ソフトの面と両方の対応が必要ではないかと思います。

浅野 氏:

北欧の国では,車道のすべりを定量的に判断し管理するシステムになっています。このシステムを日本でも応用できないかと考えています。しかし,残念なことに日本ではすべり摩擦を測定する機器が少なく,標準化されていません。まず,すべり摩擦測定器の標準化を行い,路面の管理につなげられないか模索中です。

対馬 氏:

すべらないということを考えると,自動車などに路面を判断して警報でドライバーに知らせるというシステムがあれば良いと思います。自動車メーカさんに期待したいですね。すべるという面では,あるワックスメーカーが偶然見つけたすべりを良くする薬剤の耐久性を向上させる研究が行われています。実現すればよくすべらせるワックスが誕生するでしょう。

秋田谷氏:

今までの経緯から,人々はまだまだ良くなると誤解しています。確かに製品は良くなるけれども限界は必ずある。限界点をちゃんと説明するなどの相互理解が重要ではないだろうと思います。メリット,デメリットなど情報提供し,雪,すべりと付き合うという意識が一番重要だろうと思います。

コーディネーター:

まさに「すべりを知る」に尽きると感じました。研究者だけではなく,一般人も積極的に認知することが重要なのですね。


2003image6.jpg
 北方建築総合研究所の実験施設見学会の様子

ドキュメントアクション